著作:岡山盲学校 原 広三
作成:2008年10月(2022年7月改訂)

1 視覚障害者にとってのパソコン

 視覚障害者にとってパソコンは非常に便利な道具である。高知システム開発が開発した「AOKワープロ」が登場する1984年までの全盲の視覚障害者には不可能であった、墨字(普通文字)を書いたり読んだりすることもパソコンを使えば簡単にできる。
しかし、視覚障害者にとってパソコンの操作を覚えることは大変難しい。Windowsは晴眼者にとっては大変使いやすいOSであるが、視覚障害者にとっては、Windows登場以前のMS-DOSと比べると、複数のWindowが開く画面構成は複雑であり、音声だけでは理解が困難である。

2 視覚障害者はどのようにしてパソコンを操作するか

・全盲…スクリーンリーダーを利用してキーボードで操作する。
・弱視…画面の設定で見やすい文字の大きさにしてマウスで操作する。弱視であっても視力の程度によってはスクリーンリーダーも補助的に使用する。

3 視覚障害者用のソフトウェア

(1)Windows画面音声化ソフト(スクリーンリーダー)

 画面の見えない全盲の視覚障害者にとって必要なソフトである。PC-Talker、NVDA、JAWS等あり、NVDAは無料で利用できる。ほとんどの視覚障害者はPC-Talkerを使用している。

(2)Windows画面拡大ソフト

 弱視者に必要なソフトで、Windowsの画面を2~16倍に拡大表示する。Zoom Text等の有料ソフトを購入しなくても、Windowsで画面設定でフォントやアイコンを拡大したり、Windows付属の拡大鏡を利用することで弱視者にもパソコンの利用が可能となる。弱視の人の見えにくさにはいろいろある。文字をかなり拡大しないと見えない人、少しの拡大で見える人、視力はよいが視野が極端に狭い人(拡大するとかえって見えにくい)など見え方は様々なので、一人ひとりに見え方を確認して文字の大きさや色合いなどを個別に設定する必要がある。

(3)6点入力ソフト

 全盲者にとってフルキー入力をマスターすることは、キー位置の確認ができる晴眼者と比べると困難である。若い人ならともかくIT講習会に参加するような高齢者にはなおさら難しい。6点入力ソフトは、そういう苦労を軽減してくれるソフトである。つまり、点字タイプライターを使うように6つのキー(FDS-JKL)だけで入力する方式である。6点入力ソフトは単独の製品としては発売されておらず、前述のスクリーンリーダーのPC-TALKERに付属しているKTOS(ケートス)などがある。ただし、パソコンによっては6点入力を受け付けないものがあるので購入時に注意しなければならない。

(4)エディタ

 視覚障害者用に開発されたテキストエディタでよく使用されているものとしてはMyEdit(マイエディット)がある。MyEditはPC-Talkerに付属しているソフトで、文字の拡大表示や簡単なキー操作など視覚障害者が使いやすいように設計されている。スクリーンリーダーを使えば、Wordなどの一般的なワープロソフトを視覚障害者が使うことも可能であるが、初心者には難しい面がある。

(5)メールソフト

 視覚障害者用に開発されたメールソフトでよく使われているのは、マイメール(高知システム開発)である。これも前述のマイエディットと同様に、視覚障害者が使いやすいように設計されたソフトである。一般的によく使われているメールソフトは、スクリーンリーダーが十分に対応しておらず、視覚障害者が使用するのは困難である。

4 視覚障害者へのパソコン指導の基本

 晴眼者であってもパソコン初心者にとって初めて触るパソコンへの抵抗感は強いものがある。まして、画面やキーボードの文字が見えにくい視覚障害者にとっては、パソコンを操作するのは大きな不安がある。このことを十分に理解した上で、視覚障害者のパソコン利用を支援しなければならない。
 しかし、視覚障害者がパソコンを操作するのが難しいからといって、安易に手伝ってしまうのはよくない。それでは視覚障害者が自力でパソコンを操作できるようにはならない。また、教えすぎることもよくない。晴眼者が見えているようには視覚障害者には画面の様子が見えていないので、たくさんのことを教えても消化不良を起こしてしまう。必要最小限の基本的な操作が理解できるようにゆったりとしたペースで指導したい。
 全盲者は画面が見えないので、スクリーンリーダーの音声だけを頼りに、マウスは使わずキーボードで操作する。晴眼者は基本的にマウスでWindowsを操作するが、Windowsの操作はすべてキーボードでもできるようになっている。支援者もこのキーボードによる操作に精通しなければならない。
弱視者の場合は、画面の表示を拡大すれば晴眼者と同じようにパソコンを操作することができるので、文字などを拡大して見やすい画面にする方法を指導する。ただし、マウスポインタの動きを目で追うことは難しい場合には、キーボード操作を基本にするのが望ましい。

 視覚障害者へのパソコン指導の基本について3つのポイントを述べる。
 第1のポイントは、必ず自分でキーボードを使って操作してもらうことである。支援者は親切心からマウスを使って手助けしがちであるが、それでは視覚障害者のパソコン技能習得の妨げとなってしまう。援助者はキーボードによる操作手順を、キーの位置を「左下3番目のキー」というように具体的に説明し、視覚障害者自身にパソコンの操作をしてもらうことが大切である。
 第2のポイントは、音声ガイドをきちんと聞いて操作してもらうということである。援助者はこれも親切心から横からいろいろと口出しをしたくなるが、それは視覚障害者自身が音声ガイドを聞くことを妨げることになる。
 第3のポイントは、Windowsの概念をよく理解してもらうということである。ただひとつのソフトが使えるようにすればよいのではなく、新しいソフトに対しても応用がきくように、概念(画面構成)をしっかりと理解してもらうことが大切である。そのためには、最初のうちはショートカットキーを使わず、メニューの内容を一通り確認してもらって、メニュー構成を理解してもらうことである。Windowsソフトは、どのソフトでもメニューは「ファイル、編集…」という具合に大体その構成は共通性がある。これを理解してもらえば、新しいソフトを使う場合にも応用ができる。
このようにWindowsの主な操作がメニュー方式になっていることについては十分に理解してもらう必要がある。Windowsキーで開くスタートメニューやアプリケーションソフトを立ち上げた時のプルダウンメニューを開くALT(オルト)キーについては、特に時間をかけて指導すべきである。ALTキーで開くプルダウンメニューの中に、立ち上がっているソフトのすべてのコマンドがあるので、このプルダウンメニュー間の移動法を指導することが重要である。メニューは階層構造になっていることも具体的な操作を通して理解してもらうようにする。
 また、メニューのいろいろなソフトやフォルダを開くと、それは開いたままでウインドウが重なったような状態になっていることも理解してもらう必要がある。それらは終了しているのではなく、オルトキーとタブキーでアクティブ・ウインドウ(使える状態になったウインドウ)を切り替えられることを理解してもらい、この機能を有効に活用してもらうようにすることが重要である。
 パソコン操作の主体は視覚障害者であるという認識を持って、支援者はあくまでも視覚障害者の支援に徹しなければならない。そして、視覚障害者自身が主体的に音声ガイドを頼りにキーボードで操作できるように留意したい。

5 視覚障害者のためのパソコンの環境設定

(1)全盲者のための設定

(a)マイスタートメニューへの切り替え
 F12キーを押してAOKメニューを表示→「アクセサリー」→「マイスタートメニュー」を実行
→スタートメニューが縦一列に並ぶので音声ユーザーにとってはわかりやすくなる。
(b)フォルダ・ファイルの詳細表示
 1)任意のフォルダを開く。
 2)「表示」メニューを開き、「一覧」または「詳細」に設定する。→ファイルが縦一列に並ぶのでわかりやすくなる。
 3)「表示」メニューを開き、「ファイル名拡張子」にチェックを入れる。→拡張子を読み上げることでファイルの種類がわかりやすくなる。
 4)上記を設定後に「表示」→「オプション」→「表示」タブ→「フォルダーに適用」で現在の設定をすべてのフォルダに適用する。

(2)弱視者のための設定

(a)ハイコントラスト(白黒反転)
 左シフトキー+左オルトキー+Print Screenキーを押すと、ハインコントラストへの切り替えができる。同じショートカットキーで通常の配色に戻る。
(b)マウスポインタを見やすくする
 「設定」→「簡単操作」→「カーソルとポインター」で、拡大表示や白黒反転ができる。
(c)メニューの文字を大きくする
 「設定」→「簡単操作」→「ディスプレイ」で、文字を大きくすることができる。
※ WordやExcelなどの文字はコントロールキーとマウスホイールで拡大できる。

6 基本的なキーボード操作

(1)全般的な操作

Windowsキー(Windowsのロゴマークのあるキー)  スタートメニューを開く
Esc(エスケープ)キー  スタートメニューを閉じる。ひとつ前のメニューに戻る。操作をキャンセルする。
矢印(上下左右)キー  メニューの中の項目を移動する。選択項目を移動する。
Enterキー  プログラムの起動、変換文字の確定、操作の実行、選択の決定、改行する。
Alt(オルト)キー  アプリケーションのメニューを開く。
「半角/全角」キー  日本語変換のオン/オフの切り替え
シフトキーと「変換」キー(スペースキーの右のキー)  6点入力とフルキー入力の切り替え(KTOS起動時)
Tab(タブ)キー  項目(ボタンや入力枠)の移動  ※Shift+Tabでひとつ前に戻る
Space(スペース)キー  チェックボックスのオン/オフ、漢字の変換
Alt+Tabキー  アクティブウィンドウ(タスク)の切り替え(Altキーを押したままTabキーを押していき、目的のソフトを読み上げたらAltキーから指を離す。)
※アクティブウィンドウ(タスク)=現在起動している(操作対象となっている)アプリケーションソフトまたは開いているウインドウのこと。
Ctrl+A すべて選択
Ctrl+S ファイル保存
Ctrl+P 印刷
※ショートカットキーを使えば操作が簡単にできるが、最初のうちはメニューの構造の理解のために、手順が面倒でもメニューから選択した方がよい。慣れたところで、ショートカットキーを使うとよい。

(2)PC-Talker独自のショートカット

※ほかのショートカットキーとダブって効かない場合もある。
F12  AOKメニューの起動。(PCトーカーの起動)
Ctrl+Alt+A  全文読み上げ(一行読み上げは下矢印キー、一文字読み上げは右矢印キー)
Ctrl+Alt+1  アクティブウインドウ(タスク)名の読み上げ
Ctrl+Alt+2  起動中のすべてのウインドウ(タスク)名の読み上げ
Ctrl+Alt+下矢印キー  画面情報の読み上げ
Ctrl+Alt+F 2  音声の停止/再開
Ctrl+Alt+F 3  音声化ソフト(PC-Talker)の終了
Ctrl+Shift+F 3  音声化ソフト(PC-Talker)の再起動
Ctrl+Alt+F 7  音声スピードの調節
Ctrl+Alt+F11  音声ボリュームの調節
Ctrl+Alt+F12 読み上げ設定メニューの起動
Ctrl+Alt+R  直前の音声ガイドを再度読み上げ
Ctrl+Alt+V  カーソル文字の読み上げ方の設定 
Ctrl+Alt+P  日本語変換時の読み上げ方の設定(通常は初期設定の「詳細音訓」でよい)
Ctrl+Alt+L  カーソルのある行の読み上げの再開(通常は初期設定の「簡易読み」でよい)

(3)Microsoft Edge(エッジ)での操作

全文読み上げ  シフトキー(全体の内容を聴きたい時にはこれを使う。)
読み上げ停止  エスケープキー(ただし再びシフトキーを押すと最初から読み上げる)

1文ずつ区切りながら読み上げ  コントロールキーを押したまま下矢印キー
ひとつ前の文の読み上げ  コントロールキーを押したまま上矢印キー
1文字ずつ区切りながら読み上げ  コントロールキーを押したまま右矢印キー
ひとつ前の文字の読み上げ  コントロールキーを押したまま左矢印キー
※以上の4つのショートカットについては、PC-Talkerの設定→Webブラウザーの設定で「ダイレクト操作キーを使用する」にチェックするとコントロールキーを押さずに矢印キーだけでカーソル移動と読み上げができるようになります。

見出しの読み上げと移動  Hキー
リンク項目の読み上げと移動  タブキー
前のリンク項目に戻る  シフトキーを押したままタブキー
リンク先のページを開く  リンク項目(高い声)のところでエンターキー
とばして読む  コントロールキーを押したままページダウンキー
とばして前に戻る  コントロールキーを押したままページアップキー
タブの移動  コントロールキーを押したままタブキー
新しいタブを開く  コントロールキーを押したままTのキー
タブを閉じる  コントロールキーを押したままWのキー
前のページに戻る  オルトキーを押したまま左矢印キー
次のページに進む  オルトキーを押したまま右矢印キー
最初のページに戻る  オルトキーを押したままホームキー

7 サポートする上でのポイント

(1)最初にすること

 パソコン本体、ディスプレイ、キーボード、マウス、プリンタ、スピーカーなどを実際に手で触れて形や役割を確認してもらう。

(2)Windowsの概念

・複数のWindowが同時に開いており、操作対象となっているのをアクティブ・ウィンドウという。
・メニューは階層構造になっている。
・複数のアプリケーションが同時に起動して、それを切り替えることができる。
・これらの概念を視覚的なイメージとともに説明する。

(3)メニューの操作

・ スタートメニューの操作とメニューバー(ALTメニュー)の操作では矢印キーの使い方が少し違うので注意する。
・最初はメニューで操作し、慣れてきたらショートカットキーも覚えていく。

(4)文字入力

・ 入力方法は本人が最もスムーズに入力できる方法であれば何でもよい。ただし、フルキー入力よりは6点(点字)入力の方が、特に中途で視覚障害になった、パソコンが未経験の人が最初から覚える入力方法としては簡単である。
・ 6点(点字)入力をするには、6点入力ソフト(KTOS)を起動させる。(KTOS起動後にフルキーに戻すにはシフトキーとスペースキーの右のキーを押せばよい。)

(5)ファイル管理

・ ドライブ、フォルダ、ファイルは階層構造となっていること(大きな箱→小さな箱と入れ子のようになっていること)を説明する。

(6)メールソフト(マイメール)

・ メニューバーの構成が選択しているフィールド(ボックス選択・メール一覧)によって異なっていることに注意。(メニューが変わるというのは、音声ユーザーにとっては混乱する原因にもなる。)

(7)Webページ閲覧

・ 目的の情報に速くたどり着くには、複数のキーワードを入力して検索するとよい。単語の間にはスペースを入れる。(例:「コロナ 岡山 感染者数」)

(終わり)